海外プロジェクト

夢想改造家(忘不了的家)~中国のリフォーム番組~

認知症高齢者の住まい改善

コンセプト・基本的視点

お婆さんは、認知症と高血圧、糖尿病を患っており、認知症による徘徊が19 時~ 21 時や深夜0時~1時に及ぶこともあり、介護する家族にとって深刻な症状になっていた。

認知症の症状は、中核症状と周辺症状に分かれる。中核症状は、主に認知障害と記憶障害にあると言われており、認知症患者全てに共通する症状である。一方、周辺症状は個人差が大きいため人により異なる。
一般に、介護する家族にとって負担が大きいのは周辺症状の方で、今回のお婆さんは、徘徊と暴力性、介護抵抗などの症状が見られた。

■住空間に求められる基本的視点
認知症患者は変化に敏感なため、リフォームによる間取りの変化や内観・外観の変化は自分の家だと認識されなくなる原因となり、結果として居心地の良い場所を求めた徘徊頻度の増加を招くこともある。
玄関や古い家具はそのままにしておくことが症状緩和に有効である。
また安全確保のための配慮や視認性向上、心地よい居場所づくり、目が行き届く環境整備、失禁・不潔行為の際のメンテナンスのしやすさ、介護者の対応を容易にする配慮などの対応が求められる。

■コンセプト
①認知症の特性に配慮した住環境
②介護者の負担が軽減される住環境
③高齢者の特性に配慮した住環境

認知症ケア住環境デザインのキーワード

■視認性の向上
介護する家族にとって、被介護者の行動が見れるということは介護のし易さにつながる。どこにいてもお婆さんの姿が確認できる見通しの良いプランを心掛けた。

●具体例
・形、明るさ、コントラスト、位置、周辺環境の視認性等に配慮した。
・中庭の一部を室内空間に取り込み、 リビングダイニングを拡げて1室に纏めた。中庭の周囲をガラスサッシとすることで視認性を向上させた。
・コンパクトで単純な空間構成とすることで、目的地への動線を誰にとっても分かりやすくした。玄関から一番奥の寝室まで見通せる間取りとなっている。

中庭【改修前】雨の日や冬は不便で危険なつくり。 【改修後】中庭の一部を再現している。

玄関ホール:室内を見ると一番奥の寝室まで見通せる。

■心象風景
認知症高齢者は、かつての生活環境との継続性が重要である。短期記憶の障害という認知症の特性から、できる限りかつての生活環境を維持し、残された記憶に働きかける環境とすることで空間の認知を助けることになる。
今回の計画では、なじみのある家具や道具、素材を配置することでそれぞれの場所が認識されやすくした。

●具体例
・お婆さんの寝室は、認知し易いようにベッドは元の位置に設置しているが、介護しやすいように広げて二人部屋にしている。
・越前和紙の漆喰クロスに風景写真を印刷し、元のリビングの風景写真を再現した。
・元の色や形を再現し、玄関ドアを新設した。
・植木鉢や物干し空間を再現する中庭の一部を再整備した。

【左】リビングの風景写真/お婆さん愛用の椅子 【右】なじみの椅子をリビングに設置/元の風景写真を壁クロスで再生した

【左】改修前の玄関ドア 【右】色や形を再現した玄関ドア

【左】改修前のお婆さんの寝室 【右】ベッドは元の位置に設置

■環境刺激の調整
見当識障害という症状がある。今いる場所、時間が分からなくなる症状である。見当識障害の緩和のために、匂いや風、音などの環境刺激を調整できる計画とした。

●具体例
・キッチンを内部空間でつなげ、料理中の匂いや音など内部環境の刺激によって時間の見当識障害が緩和できるようにしている。
・お婆さん愛用の椅子は、日向を感じられる場所に設置した。
・中庭や天窓を設置し、外部の環境刺激を調整できるようにしている。3つの天窓から射し込む太陽光の変化や、中庭の季節的変化によって時間の見当識障害が緩和される。

【左】天窓から光が射し込むダイニング 【中】ルーフバルコニーに設けられた天窓 【右】キッチン

天窓と中庭から光が差し込むリビング

■採光とライティング
『採光とライティング』においては、照度や照度分布、さらに過剰な刺激を避ける対策を講じた。

照明器具は光源が見え難いグレアレスダウンライトや間接照明を採用し、視力低下と明暗順応に配慮して、照度は高めで、均一な照度分布を心掛けた。
高齢になると視力の低下や、明暗順応の遅れにより一時的に見えなくなることがある。そのため普通よりも照度を上げ、居室と廊下の照度差を付けないなど、できるだけ均一な照度分布を心掛けなければならない。さらに、まぶしさに敏感な人が多くなるので、光源の見える照明器具など視覚の邪魔になるまぶしさを設けない工夫が必要であった。
過剰な刺激を避ける対策としてはタイマーによる自動制御システムの採用が挙げられる。
昼は覚醒作用のある色温度の高い照明に、夜は眠くなる色温度の低い照明に自動で切り替わるようにした。

青白い蛍光灯の光を長時間浴びると誰でも体内時計が狂い夜も覚醒してしまう。
改修前の照明は、むき出しの蛍光灯だったので、お婆さんは夜も覚醒していた可能性があった。
柔らかい電球色の色温度を基本とし夜の雰囲気を演出することにより生活リズムを整え、徘徊に対しても一定の効果が期待できるかもしれない。

【左】光源が直接眼に入り難い間接照明やグレアレスタイプのダウンライトで照明を計画。 【右】お婆さんの寝室も間接照明を主照明とした。

色温度による照度の違い/朝は6000K、日中は4000K、夜間は2700Kの色温度に設定

■徘徊への対応
『お婆さんの行動を抑止しないこと』を基本方針として様々な徘徊への対策を講じた。

①アニマルセラピーや園芸療法、音楽療法の考えを取り入れ、居心地の良い住環境とすることで自然に、長く家に居るような空間を目指した。
②玄関側の扉の色は「扉」と認識し難いように、壁と同じ白色とし、徘徊を喚起させないデザインとした。
③寝室とトイレの扉は玄関側の扉の考え方とは異なり、認知し易すくしなければならないため、認知し易い木目のデザインのものとした。
④便器を認知し易い配置とし、夜トイレに起きた時も、行動に結びつき易くした。夜間は引き戸を開放しておくことで、便器を認識しやすくなる。
⑤玄関扉には開閉時に鈴の音がなるようにした。また夜間は人感センサーによって外出を介護者に知らせる工夫をした。
玄関に設けたセンサーは、普段は照明器具点灯のために使用するが、就寝時には、お婆さんの外出を知らせるため、寝室のアラームを鳴らす。

【左】トイレ・洗面化粧台、シャワールーム。介助者の負担軽減も考慮した。 【中・右】徘徊を喚起させない壁と同色のドア

【左】園芸が楽しめる中庭。 【右】お婆さんが餌やりをしている金魚の水槽。猫の寛ぎ場も随所に。

■カラーコーディネーション
認知症になると奥行き感覚が低下する傾向にあり、床にパターンを付けたり、市松模様とすると、認知症者には『 段差』 と誤認されることがある。
床の範囲を捉え易くするために床と壁の境目にコントラストをつけて見分け易くした。
床フローリングはナチュラル系色、壁・巾木は白系のものを採用した。

■素材とテクスチャー
反射光がまぶしくて一時的に目がくらむことのないように、床や壁は『つや消し仕上げ』を基本とした。また床材は転倒予防を考慮し、防滑性やクッション性のある材料とした。

【左・中】床フローリングはナチュラル系色、壁・巾木は白系とすることで、コントラストをつけた。 【右】つや消し仕上のフローリング

2019年10月9日放送 夢想改造家(忘不了的家)

1年後、アフターアフター特集(2020年9月23日放送)で再びこの家を訪問した。
再会時、認知症のお婆さんは本間をちゃんと覚えていてくれた。
かつて1日5~6回あった徘徊は3回ほどに減り、夕方や深夜の徘徊が無くなったことで穏やかに過ごされているとのことだった。

日本の統計では、介護が必要になった主な原因の18%が認知症というデータがある。
日本は世界に類をみない超高齢社会であり、高齢者の居住環境を改善していくことが急務だと感じている。
 

プロジェクト概要

家族構成 3人(お婆さん[89]・娘[63]・娘の夫[69])
主要用途 住宅
建築場所 中国山東省滕州市
構造 レンガ造2階建
延床面積 87.5㎡
竣工年月 2019年8月

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