長女は、自閉スペクトラム症を患っていた。
食事や着替え、入浴、排せつなどの日常生活動作を自分で行うことができないので、常に介助が必要となっており、それが母親の大きな負担となっていた。
また様々なストレスが症状に影響を与えていると思われ、その改善が求められていた。
■自閉スペクトラム症患者の特徴
臨機応変な対人関係が苦手で、特定の物事への興味やこだわりが著しく、本能的志向が強いことが特徴。
〇社会的コミュニケーションや対人関係の問題
・通常の会話のやりとりが苦手であったり、ほかの人と感情を共有することが少ないと いう特徴がある。
・相手の表情や身ぶり手ぶりから、気持ちを読み取ることが苦手。
・実際に目の前にないものや、架空の事柄を想像したり空想することが難しい場合がある。また、仲間に対する興味が薄いという特徴がある場合もある。
〇「こだわり」の問題
・ものを並べたり、たたくといった単調な行動を繰り返すという特徴がある人もいる。
・同じ習慣への強いこだわりがあり、少しの変化にも苦痛を感じることがある。
・興味の範囲が狭く、特定のものにこだわるという特徴がある。
・聴覚、嗅覚、触覚、視覚など、特定の感覚が非常に敏感または鈍感な人もいる。
重度の知的障害のあるASD の患者さんの多くは、一つの部屋を様々な用途に兼用する通常の住まいでは自分の行動に結び付ける事が難しい。
そこで平面計画の各エリアを単一用途に拘った空間構成とする事、つまり日常生活(遊ぶ・寝る・食べる等)を行うときに各活動を行うための領域とその境界を視覚的にはっきりさせる事で、分かり易さを追求した。
具体的には各室の天井の色を変えて視覚的に構造化を図ったり、アロマによって嗅覚を構造化に活用する試みを行った。
それにより、これから行う行動について理解し思い出しやすくなる。
時間の構造化は視覚的スケジュールツール(PECS) を用いて行う。
これにより、いつ、どこで、どんな活動をするのか理解しやすくなる。結果的に心の準備をすることができて、不安や混乱の予防に繋がる。PECS は、言葉で伝えるときほどの記憶力を必要としない。
PECS が行い易いように、壁にマグネットが効くホワイトボード塗装を施した。
■感覚過敏・感覚鈍麻への対応(ストレスの排除)
感覚がとても敏感で、生活に大きな不便があることを『感覚過敏』という。例えば、聴覚過敏で特定の音が非常に苦手だったり、視覚過敏で天気の良い屋外を非常にまぶしく感じたり、触覚過敏で特定の肌触りの服は、ぜったい着れないなどである。
反対に、とても鈍感で生活に不便があることを『感覚鈍麻』という。
今回はそれらのストレスに対して様々な対策を講じた。
■こだわり行動の活用
こだわり行動を満たしてあげることが症状緩和には有効である。
平面プランに回遊性を持たせることで歩き回るこだわり行動を行いやすくした。
また回遊動線に構造化したピアノ室を配置することで音楽への取り組みを促進した。
■長女を見守り易い空間(視認性の向上)
壁面に開口を設け、キッチンで料理しながら長女がピアノ室やリビングで遊んでいる様子を確認することができるようにした。
■安全性を高める
重要書類の保管場所や安全性が求められる箇所は、2 重ロック式の仕様とした。
家族構成 | 2人(母親[58]・長女[30]) |
主要用途 | 集合住宅 |
建築場所 | 中国辽宁省抚顺市大自然城市家园 |
延床面積 | 125.75 ㎡ |
構造 | 鉄筋コンクリート造6階建1階 |
竣工年月 | 2018年8月 |