中国には高度成長の陰で大都市圏と農村部の所得格差が存在し、特に農村部の貧困状況は著しい。
これは、所得格差解消のために国を挙げた農村活性化プロジェクトの一環である。長寧県永江村において、古来より育まれた四川の竹の文化を活かし、新たな観光資源を創出する核となるデザインを目指したものである。
■背景
世界最大の天然竹林景勝地『蜀南竹海』の後背地に位置する中国四川省宜賓市長寧県永江村。
この村は、新緑の竹林と棚田、そして川が織りなす美しい景観を持つ貧しい村だった。
プロジェクト実現のために意識したのは、ここ永江村に古来より育まれた自然と竹の存在感や場所性を最大限に活用すること。
さらに自然環境への影響を最小限に抑え調和させること。それらを踏まえ、世界中に中国の農村の美を発信できる、現代中国にふさわしい唯一無二のデザインを生み出すことだった。
ビジターセンター以外にも、竹の研究所、レストランやホテル、レジャー施設などが計画されたプロジェクトの総面積は約1,200haに及ぶ。従来の農業の継続とともに観光への活路を見出した村人達は、経済が発展することで思考やライフスタイルをも変化させていくはずである。
核となるこの建築をきっかけに新たな観光資源が生み出され、プロジェクトを成功へと導く呼び水となることを目指した。
外観のモチーフとした衣笠茸は四川省南部竹海地方特産品で、初夏から秋にかけて竹林に群生し、竹に寄り添うように成長する。その様子を背後の竹林にイメージを重ね合わせた。衣笠茸は白いドレスを纏ったような美しい姿から「キノコの女王」とも呼ばれ、中華料理の高級食材でもある。
動線計画は中国の伝統文化である「流杯池」に着想を得ている。「流杯池」とは、曲折した水流に杯を浮かべ、その杯が自分の前を通り過ぎないうちに詩を作り、杯を取り上げ酒を飲んだ遊宴。日本にも曲水の宴として伝わった。
■経緯と成果
中国の長い歴史の中で、竹は人々の生活にあらゆる面で関わってきた。
ビジターセンターには、その多彩かつ独特の竹文化を育んできた農村の伝統を踏襲しつつ、空間・形状・材料などに機能性と現代的な演出を加えた「中国的新建築」を求められた。
その実現のために、四川省の場所性を活かし、伝統と文化を継承した新たな表現を試みた。
敷地内の竹林に寄り添うように配置した建物に、四川省宜賓市の伝統文化「流杯池」から着想を得た動線計画。
特産品の衣笠茸の白いレースをモチーフとした外観。自然に同化し周辺環境と調和したボリューム。四川の山々をイメージした屋根形状。
これらの手法により、大規模な開発ではなく土地のポテンシャルを引き出し、周囲の美しい自然と調和した建築を目指した。
ユニークな形状は、長寧県永江村の農村活性化プロジェクトの顔として訪れる人々を迎え入れる。
永江村は、文化と観光の統合を実現し、農村活性化実証村として評価を得ている。
主要用途 | 顧客センター |
建築場所 | 中国四川省宜賓市 |
敷地面積 | 1,512㎡ |
延床面積 | 547.01㎡ |
構造 | 鉄骨造 |
設計 | ㈱本間総合計画 |
竣工年月 | 2020/3/15 |