中国市場参入30周年の節目を迎えた日本ペイント中国(立邦塗料有限公司)の旗艦店である。
「モノ売り」から「コト売り」への需要の高まりを見据え、壁に塗られた塗料の使用感を体感することで商品情報を伝える消費者体験型アートギャラリーを計画した。
■背景
日本の壁紙文化と異なり、中国は住宅の壁を塗装することが多く塗料の需要が高い。
政府の後押しによる新築住宅ブームが去った一方で、築年数の経過した既存住宅のリノベーション・再塗装の需要が高まっている。
壁面用及び木部用塗料ブランドにおいて業界No.1のシェアを誇るクライアントからは、モノからサービス提供への需要の高まりを見据え、塗料製造販売だけでなく消費者体験の空間の提供により訴求効果を図るとともに、塗装市場のリーディングカンパニーとして、選ばれ続けるデザインであることが求められた。
【左】红星美凯龙ショッピングモール内【中】総見取り図(赤枠内が出店区画)【右】区画フロア
今回の案件は、上海市閔行区の最も客足の多い商圏に位置する、ショッピングモール内の旗艦店である。
入口
ショッピングモールという特性から、来店動機が購買目的の客層だけでなく、特に目的意識を持たない客層も多く訪れるため、
何となく入ってしまう『入りやすさ』を追求した。
さらに、様々な塗装で塗り分けた壁で住宅を表現することで、そのマーチャンダイジングを最大限に具現化した。
従来の店舗の調査分析では、家具や照明・装飾などが際立っており、塗装の存在感が薄い傾向がみられた。
今回の課題は塗装(商品)が主役に見えるようなデザインを試みることだった。
そこで、商品である塗料で壁を塗り分け住宅の室内を表現した。また、購買目的の無い客層も取り込む入りやすさを追求し、奥まで見通せる広いエントランスと回遊性のある空間とした。
入口と奥の壁は彩度を下げた企業ロゴの配色とし、調和のとれたコントラストを形成。重厚色を店舗の一番奥に配置することで視線を惹きつける役割も果たしている。
入口(CG)
子供部屋・寝室(CG)
書斎(CG)
居間(CG)
応接間・ダイニング・居間(CG)
【左】子供部屋 【右】寝室
住宅のような体感ができるよう、子供部屋・寝室・応接間・ダイニング・居間等の展示空間を配置し、大曲面を用いて壁面に豊かなテクスチャーを与え質感を余すことなく表現した。
応接間/入口の青と奥の赤は、企業ロゴを糸口にした色彩計画
【左】展示棚【中】ロゴを組み込んだ展示棚【右】企業ロゴ
居間
照明器具はグレアレスタイプをベースに3,500kの色温度で高演色のライトを設置した。
また、廻り縁や巾木を目透かしにすることで主役の壁を際立たせている。
さらに展示用家具等の色味を白やシルバー又は透明に抑えることで、壁の豊かな色彩を引き立たせた。
【左】ダイニング【右】ダイニングより居間を見る
使用後の容器を廃棄されることが多く、製品ロゴが見えづらい塗料業界において、着実にブランディングを重ねてきたクライアントの今後の成長戦略のひとつに「モノからサービスへ」がある。
急速に伸びるDX販路と異なり、実店舗というオフライン販路においては消費者体験が重要な意味を持つ。本案件はそれらを踏まえ、従来の店舗で表現されていたロゴの視認性によるブランド認知から、製品の使用感を見て触れて体感できる空間の演出により、訴求効果を高める方向へ転換した。
あくまでも主役は商品であることを住宅の壁で表現するために、華美な装飾を極力排除し、色温度が低く高演色の照明、白を基調とした家具、無垢の床、観葉植物による緑視率効果、モノクロに統一したスタッフのユニフォームなど、総括的な色彩計画も行った。
今後、上海旗艦店を皮切りに、コンセプトを継承した旗艦店が中国全土において展開予定である。
主要用途 | ショールーム(旗艦店) |
建築場所 | 中国上海市閔行区紅星美凱龍(呉中路1388号)五階E008店舗 |
専有面積 | 130.83㎡ |
竣工年月 | 2022年9月 |